コラム

真珠は美しい海の産物なのに……日本の海にある危機





日本の真珠は、ただの名物ではなくココ・シャネルやマリリン・モンローという20世紀を代表する女性たちに愛されていたこと。戦後の危機を救った産業であるという話をこのコラムでしました。なぜ日本の養殖技術は世界に冠たるものになったのでしょうか。そこにあるのは、日本の美しい海の力なのです。

真珠はきれいな環境の産物





養殖技術を確立した日本の真珠産業は戦後、世界に冠たるものになっていました。当然ながら、こんな疑問がでてきます。同じ技術を使って、他でまねすれば誰でも養殖ができたのではないか。

もちろん、世界中の産地で真珠の生産は可能でした。養殖真珠の技術もあった。でも、できなかったのです。原因はただ一つ。海の環境汚染です。シャネルやモンロー、さらに一斉を風靡したファーストレディ、ジャクリーン・ケネディも真珠を愛用したことで世界で空前の真珠ブームが沸き起こった、1950年代―1960年代前半という時代は、同時に世界中で石油が必要とされた時代でもありました。

新しい産業がおきて、燃料としての石油が重宝された時代でもあったのです。もっとも美しい真珠がとれて、かつ養殖でも重宝されたアコヤガイは元々、生息地が限られた貝でした。世界最大の真珠産地として知られ、日本の有力なライバルになりうるはずだったのはペルシア湾です。

ところが同時に石油の産出地でもあったため、海は石油が浮き、真珠産業はすっかり廃れてしまったといいます。インドやセイロン島といったかつて一斉を風靡した産地もほとんどが壊滅状態。結局、いろんな海で挑戦が試みられましたが、まったく身を結ぶことなく日本がトップランナーになったのです。

日本真珠の危機





国策として進められた真珠産業は日本に大きな利益をもたらします。ところが、そんな日本の海にも異変が起きているのです。それは真珠業界存亡の危機とも言えることなのです。



三重県水産研究所のホームページにはこうあります。

「平成6、7年頃から愛媛、大分県等の豊後水道海域の稚母貝生産地で貝柱が赤褐色に着色し、貝が痩せてへい死するという、これまでに経験したことのない病気が発生した。この大量へい死は、発生海域が母貝の供給地であったため、瞬く間に全国の真珠養殖場に広がって大騒動となっている」



「平成9年(1997年)から本格的な調査と原因探索が開始されているが、現在にいたるまで病原体は確認されていない。三重県でも平成8、9、10年と真珠生産は急激に減少し、真珠養殖始まって以来最大の被害を被っており、真珠業界の存亡の危機といわれる状況にある」



この文章が記載された当時と比べて、病原体の研究は進んでいますし、対策も進んでいます。しかし、日本の海がかつてと比べてアコヤガイと海さえあれば真珠が取れるという海でなくなっているのはまぎれもない事実です。



古代から日本は真珠王国でした。養殖技術が確立され、戦後も大きな利益をもたらし、文化といってもいい産業になった。その産業がいま危機に立っています。海と真珠の関係を見直し、美しい海を取り戻す取り組みが今こそ必要なのです。



「ひと粒の真珠」を育む海を守る


真珠の養殖が地球環境問題と共存して進むことを目指すため、また、クリーンな環境を次世代にバトンするために、真珠貝の育つ環境を守る団体があります。それが、NPO法人「ひと粒の真珠」です。



NPO「ひと粒の真珠」
http://www.npo-hitotsubu.com/index.html


NPO「ひと粒の真珠」は、美しい「ひと粒の真珠」を育てているアコヤ貝のために設立された団体です。海の清掃や作業現場の管理、海に恩恵を与える広葉樹の植樹などを通して、環境を守るためのさまざまな活動を続けています。パールデイズは「ひと粒の真珠」の活動を支援しています。

 

参考文献 山田篤美『真珠の世界史』(中公新書) 三重県水産研究所ホームページ