コラム

実は偽物? フェルメールの真珠、そのミステリーに迫る



「オランダのモナ・リザ」――。世界史上、最も愛された名画として名高いフェルメール「真珠の耳飾りの少女」のことです。2012年に日本初公開を果たし、大きな話題になりました。鮮やかなブルーのターバン、すっと振り返った少女の微笑み、そして何より耳元の真珠のイヤリングが印象的な作品です。



しかし、この「真珠の耳飾り」が多くの真珠関係者の頭を長年悩ませてきたという話を知っていますか? 実はこれ、天然の真珠ではなく模造真珠ではないかという説があるのです。時は1600年代のオランダ、耳飾りの秘密に迫っていきましょう。

ミステリアスな絵画、ミステリアスな真珠


フェルメールはご存知の通り、オランダを代表する名画家です。「真珠の耳飾りの少女」はフェルメールの代表作として、オランダ・マウリッツハイス美術館が所蔵しています。いま落札されるとしたら100億円とも150億円とも言われています。ターバンは彼を象徴する「フェルメール・ブルー」で彩られ、口元のかすかな微笑みがレオナルド・ダ・ヴィンチ作「モナ・リザ」を彷彿とさせます。

ちなみに、このブルーは当時、金にも匹敵すると言われたラピスラズリという珍しい鉱物からつくられるウルトラマリンブルーという顔料を多用したもの。非常に高価なものでしたが、美しい青にこだわるフェルメールは借金をしてまで取り寄せたといいます。

さて、本題に戻りましょう。問題は描かれている真珠でした。この作品は1665年ごろに描かれたとされています。フェルメールに関しての史料が少なく、描かれた時期が特定できないのです。

この時代の真珠は「高価でお金持ちだけが身につけられる宝石」ではありませんでした。ヨーロッパ諸国が交易ルートを確保したことで普通の人々も身につけられるくらいの価格で取引されている宝石になっていたのです。そう考えると、少女がイヤリングを身につけていても不思議ではないのですが、問題はあまりに大きすぎることです。ここまで大きく、円形の真珠はそうそうありません。これは本物の真珠なのでしょうか?



実は模造真珠だった?



これは専門家の間でも長らくミステリーであると言われていたようです。いまは3つの説に整理できます。一つは本物説ですが、やはり、不自然なまでの大きさから多くの疑問が残っています。真珠の専門家は納得しないでしょう。

二つ目は模造真珠説です。マウリッツハイス美術館の主任学芸員、カンタン・ビュヴェロが唱えています。ビュヴェロは当時、ヴェネツィアなどで作られていたガラスにニスを塗った模造品の可能性を指摘しています。フェルメールが作品を描いたとされる時代の少し前に、パリでは魚の鱗の銀白色の物質をガラスの内面に塗った模造真珠ができていました。模造真珠は当時のファッションとしては時代の最先端をいくもの。

ターバンもオランダのファッションではなく異国の文化(特にトルコの影響が指摘されています)です。この少女が異国の文化を自分のファッションに取り入れ、流行に敏感だったとしたら……。模造品説も納得できますね。



三つ目はフェルメールの想像説です。これはフェルメールが想像で描いた宝石ではないかというもの。この説の背景にあるのは、少女があまりにもミステリアスであることです。実は、この作品の少女が誰なのか。モデルはわかっていません。娘とも恋人とも、想像で描いた理想の少女とも言われています。モデルも描かれた時期もはっきりしないという、ミステリーが多く残る名画にぴったりな説ですね。

いずれの説を支持するにしても、この絵の魅力を彩っているのは間違いなく真珠です。昔から美と真珠は切っても切り離せない関係にあるのです。

参考文献
山田篤美『真珠の世界史』(中公新書)
『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)